アイボルトのJIS規格と安全な選び方・使い方|製造現場の事故防止へ
公開日:2026/10/26 23:00

製造現場では、大型機械の搬入・設置、金型の交換、部品の移動など、重量物の運搬や固定が日常的に行われます。これらの作業で、吊り具を取り付ける部品として使われるのが「アイボルト」です。しかし、アイボルトの規格や正しい使用方法を理解せずに使うと、重大な事故につながるおそれがあります。
この記事では、アイボルトのJIS規格から、製造現場で求められる選定方法、使用荷重の考え方、さらには2個吊り(斜め吊り)の注意点や事故防止のためのチェックポイントまで、安全な作業に必要な情報を幅広く解説します。日々の業務でアイボルトを取り扱う方、これから製造業に携わる方は、ぜひ参考にしてください。
アイボルトとは?製造現場での役割と種類
アイボルトは、重量物を吊り上げたり、固定したりするための金具です。吊り荷の落下に直結するため、工場や生産現場では安全上重要な部品として扱われています。
アイボルトの基本的な構造と用途
アイボルトは、環状の「リング部」と、対象物にねじ込む「ねじ部」で構成されています。このリング部にワイヤーロープやフックなどを通し、重量物を吊り上げたり、移動させたりする際に使用します。
製造現場では、例えば以下のような場面でアイボルトが活躍します。
- 大型機械の搬入・設置: 新しい生産設備や工作機械を工場内に運び込み、所定の位置に設置する際の吊り上げ。
- 金型交換: プレス機や射出成形機などの金型を交換する際の吊り上げ。
- 部品の移動: 重量のある部品や半製品を工程間で移動させる際の吊り上げ。
- 生産ラインでの仮固定: 設備のメンテナンス時などに、一時的に部品を吊り上げて固定する。
アイボルトは、これらの作業を安全に行うための基本となる部品です。
JIS規格アイボルト(JIS B 1168)の概要
アイボルトは、日本産業規格(JIS B 1168「アイボルト」)で規格が定められています。この規格は、機械器具類のつり上げなど一般の荷役に用いるアイボルトを対象に、使用荷重、形状・寸法、材料、保証荷重試験などの性能試験方法を規定しています。
JIS B 1168では、ボルト1個による「垂直づり」と、2個による「45度づり」の使用荷重が定められています。これ以外の方向からの吊り上げは想定されていないため、適切な選定と使用が求められます。
出典
- JIS B 1168「アイボルト」(日本産業標準調査会 JIS検索): https://www.jisc.go.jp/app/jis/general/GnrJISNumberNameSearchList?show&jisStdNo=B1168
足長・ロングアイボルトと一般アイボルトの違い
アイボルトには、ねじ部の長さによって「一般アイボルト」と「足長(ロング)アイボルト」があります。
- 一般アイボルト: JIS B 1168の寸法に基づく、ねじ部の長さが標準的なタイプです。
- 足長(ロング)アイボルト: ねじ部を長くしたタイプで、メーカー各社が製品化しています。取り付け先のねじ穴が深い場合などに選ばれます。使用荷重や使用条件はメーカーの仕様で確認します。
どちらのタイプでも、アイボルトの座面は取り付け面に隙間なく密着させて使うことが前提です。座面と取り付け面の間に隙間ができる使い方は、ねじ部に曲げの力がかかるため避けてください。使用する部材のねじ穴の深さや状況に応じて、適切な長さのアイボルトを選ぶことが重要です。
アイボルトのJIS規格と材質・寸法
アイボルトの安全な使用には、JIS規格に基づいた材質や寸法、そしてそれらによって定められる使用荷重の理解が欠かせません。
JIS B 1168に定められた主要規格と材質
JIS規格(JIS B 1168)において、アイボルトの材料はJIS G 3101のSS400、またはJIS G 4051のS17C若しくはS20Cとされています。SS400は一般構造用圧延鋼材、S17C・S20Cは機械構造用炭素鋼鋼材です。
また、JIS B 1168の材料とは別に、特定の環境下ではメーカーが製品化しているステンレス製のアイボルトが選ばれることもあります。ステンレス製の使用荷重は、メーカーの仕様で確認してください。ステンレス製アイボルトは、以下の環境で特にメリットを発揮します。
- 腐食環境: 工場内の水回り、屋外での保管、化学薬品を扱うラインなど、錆や腐食が発生しやすい場所。
- 衛生環境: 食品工場や医薬品工場、クリーンルームなど、衛生管理が厳しく、錆の発生が許されない場所。
材質選定は、使用環境と吊り荷の重量を考慮して慎重に行う必要があります。
出典
- JIS B 1168「アイボルト」の材料規定(日本産業標準調査会 JIS検索): https://www.jisc.go.jp/app/jis/general/GnrJISNumberNameSearchList?show&jisStdNo=B1168
呼び径ごとの使用荷重と寸法
JIS規格のアイボルトの使用荷重は、ねじの呼び(ねじのサイズ)ごとに、JIS B 1168の付表1で定められています。呼び径が大きくなるほど、使用荷重も大きくなります。
以下に、主要な呼び径における使用荷重の例を示します。
| ねじの呼び | 垂直づり(1個) | 45度づり(2個につき) |
|---|---|---|
| M12 | 約0.22t(約2.16kN) | 約0.22t(約2.16kN) |
| M16 | 約0.45t(約4.41kN) | 約0.45t(約4.41kN) |
※JIS B 1168に基づくアイボルトの値です。JIS外の製品(ステンレス製・高強度品など)は使用荷重が異なるため、製品の刻印やメーカーの仕様書を確認してください。
45度づりの使用荷重は「2個につき」の値で、垂直づり1個の値と同じです。2個使ったからといって、吊れる重さが2倍になるわけではありません。
製造現場でアイボルトを選定する際は、吊り上げる物の重量を正確に把握し、その重量を安全に吊り上げられる呼び径のアイボルトを選ぶことが重要です。大型金型や精密機器といった重量物を取り扱う場合は、余裕を持った選定が求められます。
出典
- アイボルトの使用荷重(JIS B 1168:1994 付表1、日本産業標準調査会 JIS検索): https://www.jisc.go.jp/app/jis/general/GnrJISNumberNameSearchList?show&jisStdNo=B1168
安全な使用方法と使用荷重の正しい理解
アイボルトの安全な使用には、使用荷重の正しい理解と、吊り上げ作業における注意点を把握しておくことが欠かせません。
アイボルトの使用荷重とは?
アイボルトの使用荷重とは、吊り上げることができる最大の荷重を指します。JIS規格のアイボルトでは、ボルト1個による垂直づりと、2個による45度づりについて使用荷重が定められています。
JIS規格では、製品の品質を確認するための保証荷重と引張荷重も規定されています。保証荷重は使用荷重の3倍の値で、保証荷重試験では、保証荷重以下で破断したり、リングの部分に0.5%以上の永久変形が生じたりしてはならないとされています。引張試験では、定められた引張荷重以下でボルトが破断してはならないとされています。
これらは製造段階の品質基準であり、使用者が使用荷重を超えて吊ってよいという意味ではありません。製造現場では、吊り荷の重量が使用荷重以下であることを必ず確認します。
出典
- 使用荷重・保証荷重・引張荷重の規定(JIS B 1168:1994、日本産業標準調査会 JIS検索): https://www.jisc.go.jp/app/jis/general/GnrJISNumberNameSearchList?show&jisStdNo=B1168
吊り角度による耐荷重の変化と注意点
アイボルトに加わる力は、吊り上げる際の角度によって変化します。
- 垂直吊り: アイボルトのねじ軸に対して縦方向に荷重がかかる、基本となる吊り方です。この場合の荷重が、カタログなどに記載されている基本の使用荷重となります。
- 2個による45度づり: アイボルト2個を使い、ワイヤーを斜めに張って吊る方法です。ワイヤーが斜めになると、1個のアイボルトにかかる力は増え、ねじ部には曲げの力も加わります。そのためJIS B 1168では、45度づりの使用荷重を「2個につき」垂直づり1個と同じ値としています。また、この値は、ざぐりなどで座面を相手と密着させ、2個のリングの向きを同一平面内にそろえた場合に適用されます。
- 横吊り・引き起こし(禁止): 横方向からの荷重や、寝かせた荷を起こす「引き起こし」は、アイボルトの設計で想定されていない使い方です。リング部やねじ部に想定以上の負荷がかかり、破断するおそれがあるため、行わないでください。
工場で大型機械や金型を吊り上げる際、作業スペースの都合などでワイヤーを大きく寝かせた吊り方になりがちですが、アイボルトの破損による重大事故を防ぐためにも、JISやメーカーが示す条件の範囲内で吊るようにしましょう。
出典
- 垂直づり・45度づりの使用荷重と適用条件(JIS B 1168:1994、日本産業標準調査会 JIS検索): https://www.jisc.go.jp/app/jis/general/GnrJISNumberNameSearchList?show&jisStdNo=B1168
製造現場での荷重計算の基礎
製造現場で安全に重量物を吊り上げるためには、吊り荷の重量だけでなく、吊り方も踏まえてアイボルトのサイズを決める必要があります。
- 吊り荷の重量確認: まず、吊り上げる対象物の正確な重量を確認します。設計図や製品仕様書、または実測値に基づきます。
- 吊り方の確認: アイボルト1個で垂直に吊るのか、2個で45度づりにするのかを確認します。
- 使用荷重との照合: 吊り荷の重量が、その吊り方の使用荷重以下になるサイズを選びます。2個で吊る場合も、使用荷重は「2個につき」の値です。例えば、M12のJIS規格アイボルト(使用荷重約0.22t)を2個使っても、吊れるのは約0.22tまでです。
- 条件外の吊り方をしない: 45度づりの条件を外れる角度での吊り上げや横吊りは行いません。どうしても必要な場合は、その用途に対応した吊り金具を選び、メーカーの仕様で使用荷重を確認します。
吊り荷の重量が使用荷重に近い場合は、一つ上のサイズを選ぶなど、余裕を持った選定を心がけましょう。
製造現場で事故を防ぐためのアイボルト選定と安全管理
アイボルトを正しく選定し、安全に管理することが、製造現場の事故リスクの低減につながります。
使用環境に応じたアイボルトの正しい選定基準
アイボルトを選定する際には、以下の要素を総合的に考慮することが重要です。
- 荷重: 吊り荷の重量が、吊り方(垂直づり・45度づり)ごとの使用荷重以下になるものを選びます。
- 吊り方: 基本は垂直づりです。2個で斜めに吊る場合は、45度づりの条件(座面の密着、リングの向きの同一平面)を満たしたうえで、2個につきの使用荷重で判断します。横吊りや引き起こしは厳禁です。
- 温度: 高温環境下で使用する場合は、鋼材の強度が低下するおそれがあるため、使用温度の条件をメーカーに確認します。
- 腐食環境: 屋外、水回り、化学薬品を扱うラインなど、錆や腐食のリスクがある環境では、ステンレス製のアイボルトも選択肢になります。その場合も使用荷重はメーカーの仕様で確認します。
- 特殊な重量物: 大型金型や精密機器など、破損が許されない重量物を取り扱う場合は、余裕を持ったサイズを選ぶ、あるいは専用の吊り具の使用を検討しましょう。
アイボルト取り付け時のチェックポイント
アイボルトの取り付けが不適切だと、本来の強度を発揮できず、事故につながる可能性があります。以下の点に注意して取り付けましょう。
- 手で密着させる: アイボルトは必ず手で回し、受け座の面とアイボルトの座面が隙間なく密着するまでしっかりと締め付けます。リング部に鉄棒やパイプを通して締め付けると、本体や取り付け部分を傷めるおそれがあるため行いません。座面を受け側に密着させることで、本来の吊り上げ能力を発揮できます。
- リングの向き: 2個で吊る場合は、ざぐりや座金で調整し、2個のリングの向きを同一平面内にそろえます。
- 緩みの確認: 吊り上げ前に、座面が浮いていないか、緩んでいないかを確認します。
- ねじ込み深さ: アイボルトのねじ込み深さが不足していると、ねじ山が破壊される危険があります。適切な深さまで確実にねじ込まれていることを確認してください。
日常点検と交換時期の判断基準
アイボルトは、長期間の使用や不適切な使用によって劣化します。定期的な点検と適切な時期での交換が、事故防止につながります。
日常点検のチェックポイント:
- 摩耗: リング部やねじ部に摩耗がないか。特に、ワイヤーロープやフックとの接触部分。
- 変形: リング部やねじ部に変形、伸び、ねじれがないか。吊り荷の急激な移動などにより、想定以上の負荷がかかると変形する可能性があります。
- 亀裂: 目に見える亀裂がないか。特にリングの根元やねじの付け根部分。
- 錆: 腐食による錆が発生していないか。錆は強度を低下させます。
これらの異常が見られるアイボルトは、たとえ小さなものであっても使用を中止し、交換してください。生産ラインの稼働中にアイボルトが破損すると、ライン停止による生産ロスだけでなく、高価な設備や製品の損傷、さらには作業員の負傷につながる可能性があります。
玉掛け作業における安全確保と資格
クレーンや移動式クレーン、デリックを使って荷を吊る「玉掛け作業」は、労働安全衛生法と同法に基づくクレーン等安全規則で、従事できる人が定められています。区分の基準は、吊り荷の重さではなく、使用するクレーン等の「つり上げ荷重」(つり上げることができる最大の荷重)です。
- つり上げ荷重1トン以上のクレーン等: 玉掛け技能講習を修了した者などでなければ、玉掛けの業務に就けません(就業制限)。
- つり上げ荷重1トン未満のクレーン等: 事業者は、玉掛けの業務に就く労働者に特別教育を行わなければなりません。
これらの講習・教育を修了した作業員が、適切なアイボルトを選定し、正しい手順で玉掛け作業を行うことが、事故防止の基本です。また、吊り上げ作業時の吊り荷の急激な移動は厳禁です。加速度によってアイボルトに想定以上の負荷がかかり、破断する可能性があるため、慎重な操作を心がけましょう。
出典
- 玉掛けの就業制限・特別教育(クレーン等安全規則 第221条・第222条): https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000034
まとめ: 製造現場の安全はアイボルトの適切な使用から
アイボルトは、製造現場における重量物の運搬や固定に欠かせない、重要な部品です。しかし、その選定や使用方法を誤ると、重大な事故につながるリスクも伴います。
この記事では、アイボルトのJIS規格、材質や呼び径ごとの使用荷重、そして垂直づりと45度づりの考え方について解説しました。特に、横吊りや引き起こしは厳禁であり、2個で吊っても使用荷重は2倍にならないこと、使用環境に応じた選定基準の重要性もご理解いただけたかと思います。
日々の作業におけるアイボルトの日常点検や、玉掛け作業における資格の遵守も、安全管理の要となります。製造現場の安全は、一つ一つの部品の適切な使用から成り立っています。アイボルトに関する疑問や、具体的な製品選定でお困りの場合は、専門メーカーのカタログを参照したり、技術担当者に相談したりして、常に安全を最優先した作業を心がけましょう。
参考記事
金型交換や設備の据え付けなど、吊り作業の経験を生かせる職場を探したい方は、製造業・工場勤務に特化したMillCrewにご相談ください。現場を理解したアドバイザーが、あなたに合う求人をご紹介します。
MillCrewにまずは会員登録
会員限定で閲覧可能な求人、機能を提供しています。厳選された製造業求人、採用活動を積極化中の企業からのスカウト受信を希望の方は、下記をご確認ください。
- MillCrewに掲載中の求人が気になる方はこちらを確認
- プロフィール記入、スカウト受信の準備はこちらから